南高・愛工大名電高ジョイントコンサートを聴いて

教育振興会会長、吹奏楽部OG 佐川日奈子(20期)

 学校創立60周年に当たる2022年は、南高吹奏楽部にとって忘れられない年になった。
 吹奏楽の甲子園大会といえる「全日本吹奏楽コンクール(以下 全国大会)」の本番ステージに、本来であれば55人出場するところ3割以上欠いた38名で出場した。前例のない異常事態である。
 10月15日の学校創立60周年記念式典を終え、あとは全国大会に全集中、というところで顧問の奥山昇先生から「実はコロナ感染者が・・・」という連絡が入った。それからさらに感染者数は増加の一途。全国大会は10月23日、回復したとしても到底間に合わない。記念式典の高揚感も吹き飛び、全国大会までの1週間は重苦しい気持ちで過ごした。
 大会当日、オンライン配信で応援しながら、渾身の演奏に心が震えた。何よりも、辞退せずに出場した勇気と矜持に対して胸が熱くなった。
 部員が名古屋から戻って程なく、奥山先生からまた連絡をいただいた。落ち込んではいないだろうか、どんな言葉を掛けたらいいのだろうかと思案しながら電話に出ると、「愛工大名電高校さんからジョイントコンサートのお話が・・・」とのこと。「地獄に仏」とはまさにこれかと思わずにいられなかった。
 何をおいても聞きに行かねばとすぐに名古屋行きのチケットをとり、12月17日、勇躍してセンチュリーホールに赴いた。会場運営の愛工大名電OBスタッフのホスピタリティ豊かな歓迎に感激しつつ客席につき、心待ちにしていたジョイントコンサートの幕開けを待つ。世界で唯一という吹奏楽作家、オザワ部長氏による司会のもと、ジョイントコンサートは進行した。
 第1部は南高ステージ、始まる前から目頭が熱い。ようやく全員でこのステージに立てた喜びの顔、込み上げる気持ちで涙ぐむ姿、それぞれの表情を目に焼き付ける。
 コンサートは、毎年入学式の入退場で演奏される「パシフィック・セレブレイション・マーチ」からスタートした。
 2曲目に演奏された「百年祭」は、創立100年にして学校統廃合のため閉校が決まっていた奈良県立城内高等学校の委嘱作品である。美しくも儚い旋律が折り重なる音の響きは、まるで一幅の日本画を見ているようであり、人のつながりが紡ぐ学校の歴史に思いをはせた。母校の60周年に立ち会えたことや、脈々と続く南高吹奏楽部OBとして、卒業後数十年たってもこうして後輩を応援できる幸せをかみしめる。
 いよいよ、本番ではできなかった55人が揃ったコンクール課題曲、自由曲の演奏であるが、ここで素敵なサプライズが・・・。コンクールと同じくステージの暗転から始まり、「1番 東北代表 秋田県立秋田南高等学校 課題曲Xに続き自由曲、管弦楽のための協奏曲」とコンクールと同じアナウンスが入った。
 「東北代表」にどれだけの重みがあるかを知る者としては、この一言で背筋が伸びる。オザワ部長氏の心憎い演出に感服しつつ、姿勢を正して演奏に集中する。課題曲と自由曲の間に拍手をしないというコンクール仕様の指示も嬉しい。
 課題曲、自由曲ともに南高の得意とする現代曲であるが、未だかつてないほどの完成度であったのではないだろうか。全霊のこもった演奏は、コンクールの域を超えたまさしく名演であった。全国大会のステージにフルメンバーで臨むことは叶わなかったが、これまで積み重ねてきた努力と人と人の繋がりによって実現したこのコンサートは一生の宝となるに違いない。  二校による合同演奏は、緊張感もほぐれ元気と笑顔があふれるステージとなった。「宝島」と「ディープパープルメドレー」が演奏され、実力校2校による大迫力サウンドに会場は大いに盛り上がった。高みを目指す高校生の真摯な姿に多くの観客は感動し、また元気をもらったのではないだろうか。心地よい高揚感を楽しみつつ、会場を後にした。
 最後に、ジョイントコンサートを実現するために多くの皆様に支えていただいたことに心から感謝し、また両校のご縁が末永く続くことをお祈りいたします。


秋田魁新報社提供